インドの川の神が弁財天に

七福神の中のただ一柱の女神である弁財天(弁才天)は、美しい女神である。弁財天は日本では、天女の姿で琵琶を持つ姿をとるが、このような弁財天は日本独自のものであると考えてよい。

インドの川の女神サラスバティーが、中国経由で日本に伝わり弁財天となった。ヒンドウー教ではサラスバティーが、ヒンドゥー教の三つの有力な神の一つである創造神ブラフマンの妻だとされる。

ヒンドウー教はアーリア人が作ったバラモン教から発展した宗教であるが、サラスバテイーはバラモン教成立時からある神だと考えられている。インドに移住してきたアーリア人はまず自分たちの生活に欠かせない水を与えてくれる川の神をサラスバティーと名付けて土地の守り神として祭った。

このあとヒンドウー教の発展によって新たな神が次々に作られた。そのためサラスバティーは、インドの多くの神の中の一つとして扱われるようになった。

仏教の天部の仏になった弁財天

最初はいくつもの川の神が祭られていたが、仏教が成立する紀元前五世紀にはインダス河の神だけが、サラスバティーと呼ばれるようになっていたらしい。インドでは二臀(二本の腕を持つ)、四臀(四本の腕を持つ)、八臀(八本の腕を持つ)などのさまざまなサラスバテイー像が作られた。像の持ち物は、数珠、縄、琵琶、水瓶、花、小太鼓などまちまちである。仏教が作られたあとに、サラスバティーの神は仏教を守る天部の仏とされた。

仏教の教団が人びとに人気のあるインドの神を、仏教にとり込んだのである。この時点で人びとの生活に密着したインダス河の神は、仏教に欠かせないものとされた。インダス河は人びとに水を与えて、農業を助けて人びとを豊かにする。そのために仏教ではサラスバティーの神は、人びとに富を与える仏とされた。その他に、サラスバティーの神は弁舌、音楽、知恵などの神とし信仰されていた。

サラスバティーという天部の仏の名前は、中国で大弁才天女、妙音天、美音天などと訳された。大弁才天女が省略されて弁才天となった。大弁才天女は弁舌などに優れた知恵の仏を、妙音天、美音天は音楽に長じた仏を表わす。『金光明最勝王経』という仏典に、弁才天は「もし財を求むるなら財を与える」仏であると記されている。日本ではこの経文にもとづいて、弁才天が弁財天と書かれることが多い。