福と禄と寿を授ける神

中国では福禄寿は長頭で背が低い異相の老人に、寿老人は端正な顔だちの仙人のような老人として描かれていた。そのため日本の禅寺でも福禄寿と寿老人は全く別の神様として扱われた。

福禄寿は杖を持って、鶴や亀を従えた姿に描かれることが多い。この杖は、鉱脈や水源の場所を示して、人びとを豊かにするためのものであると説明されている。鶴と亀は長寿を象徴する動物である。

道教では、福、禄、寿、つまり幸福と富貴と長寿が人間の三大願望とされていた。そして、中国人は福禄寿は、福、禄、寿の三つすべてを人間に授ける神だと考えた。もとは福人、禄人、寿人の三人の仙人が信仰されていたが、二人の仙人が合わさって福禄寿の神になったと説明されることもある。日本でもこのような中国の信仰にならつて、福禄寿が人間のすべての願いを叶える福の神として祭られるようになったのである。この福禄寿信仰は比較的早いうちから庶民に広がったとみられる。縦に長い額を持つ個性的な福禄寿の顔が、庶民に面白がられたためであろう。

中国の泰山の山の神と福禄寿

道教では、中国のさまざまな山の神が祭られていた。「泰山府君」と呼ばれる山東省の泰山の神は、福禄寿と同一の神であるとする説もあった。

泰山府君は人間の寿命をつかさどる神と考えられており、仏教では閻魔大王の書記とされていた。このことによつて泰山府君が、寿命を授ける福禄寿と同一の神とされたのであろう。中国仏教の泰山府君の信仰が伝わったあと、日本では泰山府君は地蔵菩薩を本地(本体)とする赤山権現赤山明概とされた。

京都の赤山禅院で祭る、赤山明神は福禄寿と同一の神だとされている。縁日の五日に赤山禅院に参拝すると商売が繁昌するといわれているため、赤山禅院は京都とその近郊の商人の参詣者を多く集めている。この赤山明神が、福禄寿を祭神とする日本でほぼ唯一の神社である。