恵比寿様の父神の権威

七福神信仰がつくられた室町時代の人びとにとって、恵比寿様が最も身近な神様であった。つまり室町時代はじめの時点では恵比寿様の信者が、大黒天の信者よりはるかに多かったのである。しかし大黒天信仰がすでに大国主命信仰と融合していたために、大黒天信仰が広まったのちに大黒天が恵比寿様の父とされるようになったのである。

しかも大国主命は、「国作らしし大神」と呼ばれる権威のある神であった。日本神話は、日本列島という国土を作ったのは伊突諾尊と伊美再尊の夫婦の神であるという。そして、大国主命ははじめて日本を治めて農耕や医療を教え、日本人が人間らしい生活ができるようにした神だとする。

それゆえこのような大国主命、 つまり大黒天が七福神の指導者にふさわしい神とされたのだ。大黒天は仏教では天部の仏であるが、仏教以前の古代インドでは大国主命と融合するのにふさわしい格の高い神であった。

破壊神シヴァと大黒天

仏教が成立する前のインドでは、バラモン教が信仰されていた。バラモン教はきわめて多くの神を祭る多神教であった。

現在インド人の多くが信仰するヒンドゥー教は、このバラモン教から発展したものである。ヒンドゥー教で特に重んじられているのが、次の三つの神である。世界を創造したブラフマン、世界を維持するヴィシュヌ、世界を破壊するシヴァである。大黒天は、恐ろしい破壊神シヴァの分身の一つであった。シヴァが魔神アンダカを退治したという神話がある。この時シヴア神は象の皮を着て、蛇で体を飾った姿で、先が三つに分かれた戟(矛に似た長い武器)を用いたという。

古代インドでは、この伝説にもとづくシヴァ神の姿をかたどつた三面六腎(三つの顔で六つの腕)の像がマハーカーラとして祭られていた。 マハーは大きく広いこと、カーラは黒いことを表わす。中国でマハーカーラが、「大黒」と訳されて、大黒天の名称が作られた。この他に中国や日本の仏教では、マハーカーラの音をとった天部の仏である摩訶迦羅天(まかからてん)も祭られている。