海から帰ってきた蛭子命が、西宮の漁民の漁業の神に

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海から帰ってきた蛭子命が、西宮の漁民の漁業の神に

西宮の広田神社の夷社
蛭子命は、日本神話の「国生み」の物語にだけ出てくる神である。そして奈良時代から平安時代なかば頃にかけて、蛭子命に関する伝説は全く見られない。

蛭子という名前は、もとの国生み神話では「ヒルという虫のような不完全な子が生まれた」ことを伝えるだけの存在にすぎなかったのであろう。平安時代末になって突然、この蛭子命が西宮の「えびす神」として出現する。「西宮のえびす神」のことを記した最古の文献は、橘忠兼の編に成る『色葉字類抄』(三巻本)という辞典である。これは、天養年間から治承年間の間(1144―81年)に成立したものである。

この『色葉字類抄』の摂津国広田社の条に、広田社の摂社(付属する神社)として「夷(毘沙門、 エビス)、三郎殿(不動明王ごという記述がある。これは広田神社の摂社の中に、夷神社と二郎殿神社があつたことを意味するものである。

広田神社とえびす神

兵庫県西宮市の広田神社は天照大神の荒魂(怒った時の神霊)を祭る神社で、平安時代には朝廷から重んじられていた。

現在は「西宮大神」と呼ばれる蛭子命を祭る西宮神社が広田神社より有力だが、広田神社は平安時代に皇室が特に重んじる二十一一社の一つとされていた。広田神社は山の麓にあり、西宮神社は海岸の近くに位置する。

現在の西宮のあたりを支配して広田神社を祭っていた地方豪族が、近くの海岸の漁民の集団を支配下に組み入れたのであろう。その時に、漁民が信仰していた「えびす」の神も、ヨ一郎殿」の神も広田神社の摂社とされたと考えられる。

神仏習合の考えから、えびすは毘沙門天、三郎殿は不動明王とされた。これに対して広田神社が祭る天照大神は、天台宗や真言宗が最も格の高い仏とする大日如来の化身と考えられていた。広田神社の支配下の神は、如来、さらにその下の菩薩より格下の天部や明王の仏にあてられたのだ。

えびす神も、三郎殿も、古くは漁民が漂着物を祭るものであったとみられる。そしてそのような神が、広田神社と繋がりを持ったことをきっかけに、神話の水蛭子(蛭子命)と結びつけられたと考えられている。「えびす様」が、天照大神より格下ではあるが、天照大神と同じ伊失諾尊を父とする神である水蛭子(蛭子命)とされたのである。

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