精霊馬|キュウリ馬・ナス牛の作り方・配置の向き完全解説

精霊馬(しょうりょううま)とは、お盆に 盆棚(精霊棚) へ供える伝統的な供物で、きゅうりで作る馬なすで作る牛の二体一組が基本です。きゅうりの馬には「ご先祖さまに少しでも早く家へ帰ってきてほしい」という願いを、なすの牛には「お土産をたくさん背負って、ゆっくりあの世へお戻りください」という願いを込めます。割り箸または爪楊枝を4本ずつ刺して足とし、迎え盆13日に内向き、送り盆16日に外向きに配置するのが一般的です。本記事では、精霊馬の意味・きゅうりとなすを使う本来の理由・正しい作り方・向きと配置・処分方法・浄土真宗で作らない教義的背景・地域差(精霊牛、精霊船、精霊棚舟など)まで網羅。仏事ハブ から 盆花水の子迎え火・送り火初盆のやり方浄土真宗の初盆 も合わせて確認できます。

精霊馬 基本情報(早見表)

項目 内容
呼称 精霊馬(しょうりょううま)/盆馬・盆牛・牛馬(うしうま)
素材 きゅうり1本・なす1本(夏に手に入りやすい旬野菜)
足の素材 割り箸4本ずつ/爪楊枝・麻幹(おがら)でも可
きゅうり馬の意味 足の速い馬で「早く帰ってきてほしい」
なす牛の意味 足の遅い牛で「ゆっくりお戻りください」「お土産を運ぶ」
飾る場所 盆棚の下段または前面・仏壇前の小机
飾る期間 8月13日〜16日(地域により7月13日〜16日)
向き 13〜15日:家の内側/16日:家の外側(玄関方向)
処分 送り火後に焚き上げ・川送り・土に埋める・白紙に包んで一般ごみ
不使用宗派 浄土真宗(教義上、霊が往来するという考え方を取らない)
不使用地域 沖縄旧盆(ウサンミ・サトウキビ等の独自供物が中心)
由来 江戸期以降に庶民へ広まった盆儀礼。文献は江戸後期の風俗書に散見

きゅうり馬・なす牛の意味(なぜこの二種か)

動物 食材 込められた願い 象徴する場面
きゅうり 「足の速い乗り物で早く帰ってきてください」 迎え盆(13日)
なす 「足の遅い牛でゆっくり、お土産をたくさん背負って」 送り盆(16日)
共通 夏野菜 盂蘭盆(旧暦7月)に最も入手しやすい旬の供物 盆全期間

なぜ他の野菜ではなく「きゅうり」と「なす」なのかには、現実的な理由が三つあります。第一に、旧暦7月(新暦8月)の盆時期にどの家の畑にも実っている最も身近な旬野菜であったこと。第二に、きゅうりの細長い形が走る馬の胴体に、なすの丸みのあるフォルムが牛の胴体に見立てやすいこと。第三に、夏の高温下でも数日間は形を保ちやすく、盆三日間の供物に耐えられること。庶民の暮らしの中から自然に生まれた「見立て供養」の傑作といえます。

精霊馬の作り方|手順表(所要15分)

手順 内容 ポイント
① 材料準備 きゅうり1本・なす1本・割り箸4本ずつ(または爪楊枝8本・麻幹) 形のよい新鮮なものを選ぶ。曲がったきゅうりは「走る馬」らしく見えてむしろ可
② 向きを決める きゅうりは細い方を頭、太い方を尾。なすはヘタを頭にする ヘタが残っているとなすの牛らしさが増す
③ 足の位置決め 胴体下面に4箇所、均等に印をつける 前足2本・後ろ足2本。立たせたい場合は外側にやや広げる
④ 足を刺す 割り箸を半分に折って8本にし、4本ずつ刺す 刺さりにくい場合は錐や竹串で下穴を開ける
⑤ 立たせる 4本の足の長さを揃え、平らな場所で安定させる ぐらつくときは足先をはさみで切って調整
⑥ 配置 盆棚の下段または前面に、頭を家の内側に向けて置く 13日朝までに準備完了が理想

子どもと一緒に作る場合は、爪楊枝より割り箸が安全です。麻幹(おがら:皮を剥いだ麻の茎)を使うと迎え火・送り火と素材が揃い、伝統的な見栄えになります。麻幹はホームセンターや仏具店で「お盆セット」として入手可能です。

向き・配置の詳細|13日と16日で変える

場面 馬・牛の向き 意味
8月13日(迎え盆) 朝〜夕方 頭を家の内側(仏壇側)に向ける あの世から家へ「向かって走ってくる」表現
8月14日 中日 13日と同じ内向きを維持 ご先祖が家でくつろいでいる時間
8月15日 中日 内向きを維持 家族とのひととき
8月16日(送り盆) 朝〜送り火 頭を家の外側(玄関・西方向)に向け直す あの世へ「向かって帰る」表現
地域差① 東北・北関東一部 馬は内向き・牛は外向きで固定 「迎えは馬、送りは牛」を空間で表現
地域差② 長野・山梨一部 13日から外向き・16日に180度回転 地域慣習による独自解釈

編集部の見立てでは、向きの正解は一つではなく「家ごと・地域ごとの慣習が正解」です。お父様・お母様、ご親戚の年長者に「うちの家ではどう置いてきたか」を一度確認しておくと、世代を超えて作法が受け継がれていきます。

精霊馬の処分方法(送り盆後)

処分方法 地域・状況 手順 注意点
菩提寺で焚き上げ 全国・最も丁寧 送り火後、菩提寺へ持参しお焚き上げを依頼 事前に受付可否を電話確認。志納料の目安は3,000〜5,000円
地域の合同送り火 京都五山・各地の灯籠流し 地元自治体・寺院の送り行事に持参 近年は環境配慮で受付制限のある地域も
川や海に流す 古来の伝統作法 白紙に包み、河川敷から流す 河川法・廃棄物処理法に抵触する地域があり、現代は原則NG
土に埋める 畑・庭がある家庭 白紙に包み、深さ20cm程度に埋める 野生動物に掘り返されない場所を選ぶ
白紙に包んで一般ごみ 都市部・現代的標準 白い半紙か奉書紙で包み、塩を一つまみ添えて可燃ごみへ 感謝の気持ちを込めて処分すれば失礼にあたらない
家庭菜園へ堆肥化 環境配慮派 足の割り箸を抜き、コンポストへ 近年広まりつつある選択肢

農林水産省の食品ロス削減指針の観点からも、堆肥化や土に還す処分は現代的な選択肢として推奨されます。一般ごみで処分することに罪悪感を抱く必要はありません。供物としての役目を終えた野菜への感謝を、白紙と塩で表現すれば十分丁寧な作法です。

浄土真宗で精霊馬を作らない理由

浄土真宗(本願寺派・大谷派ほか)では、原則として精霊馬を作りません。教義上の理由は明確で、阿弥陀如来の本願により故人は臨終と同時に極楽浄土に往生し仏となるため、お盆に「霊があの世から家に戻り、また帰っていく」という往来の概念を取らないからです。詳しくは 浄土真宗の初盆 記事で解説していますが、要点は以下の通りです。

  • 霊魂往来説を取らない:故人はすでに仏となっており、迎えに行く・送り出す対象ではない
  • 盆は「歓喜会(かんぎえ)」:ご先祖を偲び仏法に感謝する仏教行事として営む
  • 供物の中心は華・香・灯:盆棚の代わりに仏壇を整え、打敷を掛け華を生ける
  • 地域慣習との折衷:門徒でも地域慣習として精霊馬を作る家庭は実在する。教義上の建前と日常の慣習は分けて考える

「教義通りでなければならない」と肩肘を張る必要はなく、地域や家ごとの伝え方を尊重するのが現代的な姿勢です。全日本仏教会も各宗派の作法は宗門の指導に従いつつ、地域慣習を否定しない立場を取っています。

歴史的背景|精霊馬はいつから始まったか

精霊馬は、日本のお盆儀礼の中でも比較的新しく生まれた民俗とされます。仏教伝来期(飛鳥〜奈良時代)に中国・インドから入った盂蘭盆経(うらぼんきょう)には精霊馬の記述はなく、もともとの仏教儀礼ではありません。江戸時代中期以降、庶民の間で盆の家祭祀が広まる過程で、東日本の農村部から「畑の旬野菜で乗り物を作りご先祖をもてなす」という見立て供養が発生し、明治・大正期に全国へ広まったと考えられています。日本民俗学会の調査では、江戸後期の風俗書『東都歳事記』『守貞謾稿』にも盆の供物として瓜・茄子の記述が散見されます。つまり精霊馬は「古来の正統」というより「庶民の生活の中で育った創造的供養」という性格が強く、形式の細部に絶対の正解は存在しません。家ごと地域ごとの伝え方こそが、その家の精霊馬の正解です。

現代風アレンジ|SNS時代の精霊馬

アレンジ 内容 適性
立体造形精霊馬 きゅうり・なすに目や口、たてがみを彫って動物らしく造形 子どもの自由研究・SNS映え
ミニチュア精霊馬 ミニきゅうり・小なすで手のひらサイズに作る マンション・コンパクト仏壇向け
麻幹(おがら)精霊馬 足を麻幹で揃え、迎え火・送り火と素材を統一 伝統重視・見栄え重視
家族イラスト精霊馬 子どもが画用紙でメッセージカードを添える 核家族・初盆家庭
堆肥化前提アレンジ 足を竹串にし、処分時にまとめて土に還す設計 環境配慮派・家庭菜園あり
故人の好物添え 馬・牛の周りに故人が好きだった夏の食材を一品添える 初盆・命日の浅い年

編集部の見立てでは、形式に縛られすぎず「ご先祖が見て喜ぶ姿」を家族で考える時間そのものが、現代における最良の供養です。インスタグラムやXに精霊馬の写真を投稿する家庭も増えており、SNSは民俗継承の新しい場として機能しはじめています。ただし他家の仏壇や盆棚を無断撮影・拡散する行為は控え、家族の手元の供物に限って共有するのがマナーです。

地域差・派生物(精霊牛・精霊船・盆船)

地域 呼称・派生物 特色
関東一円 精霊馬(標準) きゅうり馬・なす牛の2体セット
関西 盆馬・盆牛 標準形だが、簡略化や省略する家庭も多い
東北(青森・岩手) マコモウマ マコモ(真菰)の茎で編んだ馬を供える
長野県 天ぷら馬 きゅうり・なすを天ぷらにして供える独自慣習の地域あり
長崎県 精霊船(しょうろうぶね) 初盆の故人を彩り船で送り出す精霊流し。文化遺産オンライン収録の重要無形民俗文化財
広島県 盆灯籠 精霊馬の代わりに彩色灯籠を墓前に立てる
沖縄県 ウサンミ・サトウキビ 精霊馬を使わず、重箱料理とサトウキビ(あの世への杖)を供える独自文化
北海道 本州ルーツの混在 入植元の慣習(東北・北陸由来)が混在

日本民俗学会の研究では、精霊馬は江戸後期の風俗書に登場する比較的新しい民俗で、近世以降に庶民層へ広まったとされます。同じ「ご先祖を迎え送る」気持ちでも、地域の自然環境(川・海・山)や農産物事情に応じて表現が多様化したのが日本のお盆文化の豊かさです。

避けるべきNG行動表|精霊馬で気をつけたいこと

NG行動 理由 正しい対応
使ったきゅうり・なすを食べる 供物として霊にお供えしたものを再食するのは作法に反する 処分する。食べたい場合は予備を用意
翌年に使い回す 野菜は腐敗する。霊への供物は毎年新しいものが原則 毎年新鮮なきゅうり・なすで作り直す
河川に投棄する 河川法・廃棄物処理法違反となる地域が多い 菩提寺の焚き上げ、または白紙に包んで一般ごみへ
足を3本や5本にする 4本足が動物の自然な姿。意図的に変えるのは避ける 必ず4本(前2・後2)で作る
頭の向きを完全無視で適当に置く 迎え・送りの意味が薄れる 迎え盆は内向き、送り盆は外向きを基本に
浄土真宗で形式だけ強要する 教義と齟齬が生じ、家族間でトラブルになりやすい 家族・親族で事前に作法を共有しておく
子どもに刃物で作らせる 怪我のリスク。包丁・千枚通しは大人が担当 子どもは「足を刺す」工程のみを安全な割り箸で担当
盆棚以外の場所(玄関・寝室など)に置く 供物としての位置づけが曖昧になる 盆棚下段か仏壇前の小机に置く

精霊馬 よくある質問(FAQ 14問)

Q1. 精霊馬とは何ですか?

お盆に盆棚へ供える、きゅうりの馬となすの牛の二体一組の供物です。「早く帰ってきて、ゆっくり戻ってください」という願いを込めた庶民由来の盆儀礼で、江戸後期から明治・大正期にかけて全国に広まりました。仏教の正典には記述がなく、日本人の自然観と先祖崇拝が融合して生まれた創造的供養と位置づけられます。

Q2. なぜきゅうりとなすを使うのですか?

旧暦7月(新暦8月)の盆時期に最も入手しやすい旬野菜であること、形が馬と牛に見立てやすいこと、夏場でも数日は形を保つことの3点が理由です。江戸期の農村社会では、畑の旬野菜こそが最も身近で清浄な供物であり、「あるものを工夫して捧げる」という庶民の知恵が現在まで継承されています。

Q3. きゅうりが馬・なすが牛なのはなぜですか?

きゅうりの細長く速そうな形を「足の速い馬」に、なすの丸く重そうな形を「足の遅い牛」に見立てました。馬は迎え(早く家に帰ってきてほしい)、牛は送り(お土産をたくさん背負ってゆっくり戻る)を担います。形態と動物の特徴を結びつける見立ての発想は、日本の民俗供養の特徴的な美意識です。

Q4. 作り方を簡単に教えてください。

きゅうり1本・なす1本に、割り箸を4本ずつ刺して足にします。所要時間は15分程度。子どもと一緒に作るのが伝統的です。麻幹(おがら)を足に使うと迎え火・送り火と素材が揃って見栄えが整い、伝統的な印象が強まります。爪楊枝でも代用できますが、子どもが触る場合は割り箸または麻幹を選びます。

Q5. 配置の向きはどうしますか?

13〜15日は頭を家の内側(仏壇側)、16日の送り盆は頭を家の外側(玄関・西方向)に変えます。地域差があり、迷ったら親族の年長者に確認を。「迎え盆と送り盆で動線を視覚化する」という意味が込められており、家族全員で向きを変える瞬間を共有することで、お盆の節目が体感的に明確になります。

Q6. 処分はどうすればよいですか?

菩提寺の焚き上げが最も丁寧。難しければ白い半紙に包み塩を添えて一般ごみで処分しても問題ありません。河川投棄は法令違反になる地域が多いため避けます。家庭菜園がある場合は土に還す堆肥化も近年広まっている選択肢で、「ありがとうございました」と一言添える気持ちさえあれば、処分方法に絶対の正解はありません。

Q7. 浄土真宗でも精霊馬は作りますか?

教義上は不要です。故人はすでに仏となっており、迎え送りの対象ではないという考え方を取るためです。ただし地域慣習として作る門徒家庭もあります。詳細は 浄土真宗の初盆 を参照してください。

Q8. 沖縄でも精霊馬を作りますか?

作りません。沖縄旧盆はウサンミ(重箱料理)とサトウキビ(あの世への杖)を中心とする独自文化で、本土の精霊馬とは作法が異なります。

Q9. 子どもと一緒に作っても大丈夫ですか?

強く推奨します。文化伝承の絶好の機会で、5歳児から参加可能です。刃物は使わず、割り箸を半分に折る・刺すといった安全な工程に限定すれば事故は防げます。

Q10. 何個作ればよいですか?

きゅうり馬1体・なす牛1体の合計2体が標準です。ご先祖や故人の人数分を作る家庭もありますが、必須ではありません。

Q11. 割り箸がない場合の代用は?

爪楊枝・竹串・麻幹(おがら)で代用可能です。子どもが触る場合は安全性を優先して割り箸または麻幹を選びます。

Q12. 使ったきゅうり・なすは食べてもよいですか?

食べません。供物として霊に捧げたものを再食するのは作法に反します。料理に使いたい場合は別に予備を用意します。

Q13. 翌年に使い回せますか?

使い回しません。野菜は腐敗しますし、霊への供物は毎年新しいものを供えるのが原則です。割り箸も含めて毎年新調します。

Q14. マンション住まいで盆棚がない場合は?

仏壇前の小机に小皿を置き、ミニきゅうり・小なすで作る手のひらサイズの精霊馬を供えれば十分です。形より気持ちが大切で、現代の住環境に合わせた形態が広まっています。仏壇すらない家庭の場合は、リビングの清浄な棚や机の一角に白い布を敷き、その上に精霊馬と故人の写真、ろうそく、季節の花を一輪添えるだけでも立派な盆飾りになります。お盆の本質は「家族が集まり、ご先祖を思い出す時間」であり、空間の規模や仏具の有無は二の次です。

関連記事・参考資料

関連記事は 仏事・行事ハブ盆棚(精霊棚)盆花水の子迎え火・送り火初盆のやり方浄土真宗の初盆 をご覧ください。お墓参りや法要のマナーは 法事・法要、年中行事の体系は 二十四節気 も合わせて参考になります。

参考資料:全日本仏教会文化庁文化遺産オンライン/日本民俗学会/農林水産省

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最終更新:2026年5月6日

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